生成AIと個人情報、社内ルールの国内外事例
生成AIに候補者の個人情報を入力する際の社内ルールが機能している企業は、「AIに渡す前にどこまで人が判断するか」と「AIが出した後に何を人が確認するか」の2点を組織として明文化している。逆に、ルールがないまま個人利用の延長で生成AIを使い続けた企業では、国内外を問わず、情報が外部サービスに渡ったあとで対策を追加する、あるいは一度利用そのものを止めるという後追いの対応になっている。本記事では、この2つの判断ポイントを軸に、国内外の具体的な事例を見ていく。
生成AIに個人情報を入力する行為には、どんな法的確認義務があるのか
生成AIに応募者・候補者の個人情報を入力する行為には、個人情報保護法上「利用目的の範囲内かどうか」を確認する義務があり、採用業務の場合はこれに加えて厚生労働省の指針が重ねて適用される。
個人情報保護委員会は2023年6月2日に公表した注意喚起の中で、個人情報取扱事業者が生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、特定された利用目的の達成に必要な範囲内であることを確認すべきだとしている。さらに、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、そのデータが応答結果の出力以外の目的(機械学習等)で取り扱われる場合は、個人情報保護法の規定に違反する可能性があるため、生成AIサービス提供事業者が当該データを機械学習に利用しないことなどを十分に確認すべきだと注意喚起している[出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」2023年6月2日]。弁護士による解説でも、この点が企業の確認事項として重ねて説明されている[出典:Authense法律事務所「個人情報を生成系AIに入力する際の注意点とは?」2023年12月27日]。
採用業務にはさらに、厚生労働省の指針が別途かかる。職業紹介事業者・求人者・募集受託者等に対して、求職者等の個人情報の収集・保管・使用にあたり、その目的を求職者等が一般的かつ合理的に想定できる程度に具体的に明らかにすることを定めている[出典:厚生労働省「求職者等の個人情報の取扱いに関して適切に対処するための指針」最終改正:令和六年厚生労働省告示第三百十八号]。この指針自体は生成AIの利用を直接規定したものではないが、候補者情報を生成AIに渡す場面でも、既存の指針との整合性を確認する必要がある。生成AIと個人情報の基本的な注意点については、生成AIと個人情報、採用担当者が注意すべき点で別途整理している。
事例を比較する観点:「AIに渡す前」と「AIが出した後」のどちらで人が判断しているか
国内外の事例を比較する際に有効な観点は、「AIに渡す前」と「AIが出した後」のどちらに人の判断が置かれているかである。生成AIは個人情報を要約・分析して「書く」ところまでしか担わず、送る・登録する・共有するという実行工程は人の手作業として残る[出典:bgrass株式会社「一言で採用が前に進む フェアパスAI 実態レポート」2026年6月]。つまり、入力前のマスキングや確認、出力後の共有・送付の判断は、生成AIがどれほど高性能になっても人の作業として残り続ける。
これから見る4つの事例は、この「渡す前」と「出した後」のどちらに人の判断を置いているか(あるいは置いていないか)で明確に分かれる。bgrassが商談や現場での知見から整理した内容によれば、AIエージェント導入前に企業が抱く不安の一つに「AIへの不信感(勝手に変なメールを送らないか、個人情報は大丈夫か)」がある[出典:bgrass株式会社「スイッチングコストゼロ 採用AI設計図」2026年7月24日告知]。この不信感が、ルールを作る方向に向かうか、入力自体を禁止する方向に向かうかで、事例ごとの結果が分かれている。
国内事例:採用担当者が候補者の履歴書をそのまま生成AIに入力していたケース
国内のある採用担当者は、応募者の氏名・住所・電話番号・メールアドレス・学歴・職歴・写真を含む履歴書をそのまま生成AIにアップロードして要約させていた。これは「AIに渡す前」の人の判断が存在しない状態であり、個人情報保護法上の利用目的確認も、本人同意の確認も行われていなかったことになる[出典:jtrustc.co.jp「生成AIの業務利用と個人情報保護」]。
このケースでは社名が匿名化されており(記事内ではO社と表記)、発生時期や件数の詳細も明記されていないため、業界全体での発生頻度を示すものではない。ただし、その後にこの担当者が導入した対策は参考になる。生成AI利用ルールの明文化、法人向けプランへの切り替え、同意取得文の追加、入力前のマスキングという4つの対策を順に導入している。このうち「入力前のマスキング」と「同意取得文の追加」は「AIに渡す前」の判断を設計する動きであり、「法人向けプランへの切り替え」は出力データの扱いに関するリスクを下げる動きにあたる。
このケースは、bgrassがAI駆動採用の失敗パターンとして整理している「個人利用のAIをそのまま業務に組み込み、担当者ごとの裏ルールが言語化されずに残る」という構図と重なる[出典:bgrass株式会社公式note「AI採用エージェント導入の3つの失敗事例」]。個人の判断に委ねられたまま運用が始まると、何を入力してよいかという基準が組織の中で共有されず、結果として「渡す前」の判断が欠落した状態が続くことになる。
海外事例:サムスン電子、ソースコード入力をきっかけにした社内PCでの一時利用停止
サムスン電子では、2023年3月にChatGPTの社内利用を解禁した直後の同年4月、半導体部門の従業員がソースコードや社内会議の内容を生成AIに入力する事例が複数回あったと報じられた。同社はまず1回の入力を1024バイトに制限する緊急措置をとり、続いて2023年5月1日から、DX(コンシューマー向け機器)部門で社内PC上の生成AIツールの利用を一時的に禁止した[出典:The Register等による韓国メディア報道の二次報道、2023年4月6日ほか]。
この事例は国内の解説記事で「全面禁止」として紹介されることがあるが、報道をたどると実態は少し異なる。禁止は恒久的・全社的なものではなく一時的な措置であり、同社は並行して翻訳・文書要約・ソフトウェア開発を支援する自社ツールの内製を進めていたとも報じられている。つまりこのケースは「ルールを作る」か「禁止する」かの二択ではなく、判断基準を設計し直すまでの時間を、外部サービスの一時停止で買った例として読むのが正確である。採用業務に置き換えるなら、候補者情報の扱いについて社内ルールが固まっていない段階で入力を止めること自体は、極端な対応ではなく合理的な中間措置になりうる。
ただし、この事例は採用業務ではなく、対象も個人情報ではなく機密情報(ソースコード)である。流出した情報の範囲や件数は確認されておらず、サムスン電子自身の公式発表も確認できていない。いずれも韓国メディアの報道を各国メディアが再報道したものであり、報道ベースの情報として扱う必要がある。
もう一つの漏洩パターン:生成AIの共有(公開リンク)機能による意図しない公開
生成AIの入力内容そのものではなく、共有(公開リンク)機能の使い方次第で会話内容が検索エンジン経由で第三者に閲覧される可能性があることも報告されている。これは入力時にどれだけ注意していても防げない、「AIが出した後」の操作に起因する漏洩パターンである[出典:NTN「生成AIにより情報が漏洩した事例」]。
この事例については、対象サービス名や発生年が記事内に明記されておらず、記事内の年表記にも矛盾が見られるため、時期を特定した引用は避ける必要がある。ただし、ここで示されている構造自体は参考になる。業務文書や個人情報を含みうる会話内容を、共有機能を使って外部に渡せる状態にするかどうかは、生成AIではなく人の操作によって決まる。入力前のルールだけを整備しても、出力後に何をどう共有するかという判断が設計されていなければ、この種の漏洩は防げない。生成AIは「書く」ところまでしか担わず、送る・共有するという実行は常に人の手に残る[出典:bgrass株式会社「一言で採用が前に進む フェアパスAI 実態レポート」2026年6月]という整理は、入力時だけでなく出力後の場面にも同様に当てはまる。
国内事例:サイバーエージェント、ガイドラインを「守らせる仕組み」とセットで作る
サイバーエージェントは2023年4月4日、インターネット広告事業本部に「ChatGPTオペレーション変革室」を設立すると発表した。目的は月間約23万時間に及ぶ広告オペレーションの作業時間削減(約30%・約7万時間が目標)だが、発表時点で運用の前提も示されている。OpenAIの規約で学習に利用されないとされるAPI連携のみを使い、顧客情報を含めない、という2点である[出典:株式会社サイバーエージェント プレスリリース、2023年4月4日]。「AIに渡す前」の判断基準を、組織の立ち上げと同時に明文化した形といえる。
さらに同社は2024年2月、社内向けに「画像生成AIガイドライン」を発表し、同年4月にその一部を外部公開した。注目したいのは文書の中身よりも、それを守らせる仕組みの方である。利用ツールの審査ルールを定めたうえで理解度テストを実施し、合格しなければツールの利用申請がリジェクトされる運用にしている[出典:ITmedia エンタープライズ「サイバーが社内向け『画像生成AIガイドライン』を策定」2024年4月8日]。ガイドラインを配っただけでは、読んだかどうかも、理解したかどうかも確認できない。テストの合格を利用の前提条件に組み込むことで、「渡す前」の判断基準が個人の自己申告に戻らないようにしている。
bgrassが内製化を判断する3つの問いの一つとして挙げる「保守性(作った後、運用し続けられる体制があるか)」は、ガイドラインの運用にもそのまま当てはまる。内製化の本質は、実行のソフトウェアを自社で書くことではなく、判断基準を言語化して渡せる状態にすることにある[出典:bgrass株式会社「AI日程調整と、日程調整ツールは何が違うのか」2026年8月28日]。
なお、第三者メディアには「2023年4月17日に生成AI利用ガイドラインVer.1.0を策定」と紹介するものがあるが、日付・文書名ともに同社の公式発表では確認できなかったため、本記事では扱っていない。また画像生成AIガイドラインの対象は画像生成であり、テキスト生成AIへの個人情報入力を直接規律したものではない点にも注意が必要である。
国内事例:DeNA、守るべきルールと「守ったうえでの使い方」を同時に見せる
DeNAは、社員のAI活用事例100件をまとめたスライド「AI活用100本ノック」を、オウンドメディア「フルスイング by DeNA」で無料公開している。同社はこのスライドについて、掲載されている事例はいずれも社内の生成AIに関するルールを順守した方法で運用されており、透明性・公平性・プライバシー・品質・人間による監督を重視する自社のAIポリシーにも沿っていると説明している[出典:フルスイング by DeNA(株式会社ディー・エヌ・エー)]。
このケースが前の事例と異なるのは、ルールの文書と、そのルールを守ったうえでの具体的な使い方を、セットで示している点である。ガイドラインという禁止事項の一覧だけでは、現場の個別の業務でどう振る舞えばよいかが伝わりにくい。「ルールの範囲内で実際にこう使っている」という事例が100件並んでいれば、担当者は自分の業務に近いものを探して参照できる。これは、担当者ごとに判断基準がばらつき、裏ルールが言語化されないまま残るという失敗パターンを避ける設計といえる[出典:bgrass株式会社公式note「AI採用エージェント導入の3つの失敗事例」]。
ただし「AI活用100本ノック」はAI活用全般の事例集であり、候補者の個人情報を生成AIに入力してよいかという採用固有の判断基準を示した文書ではない。社内ルールとAIポリシーの本文も公開されていない。また第三者メディアには「生成系AIサービス社内利用観点マニュアルを全従業員向けに整備」と紹介するものがあるが、この名称の文書は同社の公式情報では確認できなかったため、本記事では文書名を特定した形では扱っていない。
4つの事例に共通するパターンと、採用担当者が参考にできる点
4つの事例を「AIに渡す前」と「AIが出した後」という軸で並べると、ルールが機能している企業ほど、個人情報を渡す前の判断基準を個人の裁量に委ねず組織的に設計している点が共通している。一方、判断基準が存在しないまま生成AIの利用が始まった事例(国内の履歴書アップロードのケース)では、結果として個人情報がそのまま外部サービスに渡る状態が続いていた。サムスン電子のケースは、判断基準を作る前に入力を一時的に止めたうえで、並行して自社ツールの内製を進めた例であり、「禁止」と「ルール整備」は二者択一ではなく、順番の問題として扱われている。
ここから採用担当者が参考にできる点は、次の3つに整理できる。
- 不信感の正体を直視する:「AIが勝手に個人情報を扱うのではないか」という不安は、AIエージェント導入前に企業が共通して抱く不安の一つであり[出典:bgrass株式会社「スイッチングコストゼロ 採用AI設計図」2026年7月24日告知]、曖昧にせず「何を渡す前に確認するか」という具体的な問いに変換する必要がある
- 判断基準を言語化して渡せる状態にする: 内製化の本質は実行のソフトウェアを自社で書くことではなく、判断基準を言語化して渡せる状態にすることにある[出典:bgrass株式会社「AI日程調整と、日程調整ツールは何が違うのか」2026年8月28日]。これはガイドラインを文書として作ることではなく、サイバーエージェントの理解度テストやDeNAの活用事例公開のように、現場が実際に参照し、守っているかを確認できる形にすることを含む
- 既存フローにAIを乗せるだけで終わらせない: AIが存在する前提で組まれていない既存の業務フローに、AIをただ乗せることは失敗パターンの一つである[出典:bgrass株式会社公式note「AI採用エージェント導入の3つの失敗事例」]。入力前の判断と出力後の判断の両方を、既存フローの見直しとあわせて設計する必要がある
社内ルールを実際にどう設計するかについては、生成AIに候補者情報を入力する社内ルールの作り方で具体的な手順を整理している。また、生成AIが「書く」ところまでしか担わず実行は人に残るという構造自体については、採用オペレーションAI最前線:ClaudeやChatGPTで採用業務は「楽になっている」のか?で詳しく扱っている。
よくある質問
法人向け(エンタープライズ)プランなら生成AIに個人情報を入力してよいか?
学習に利用されない設定であっても、それだけでルールの代わりにはならない。個人情報保護委員会の注意喚起は、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、そのデータが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合に法違反となりうるとしており、企業は生成AIサービス提供事業者が機械学習に利用しないことを確認する必要があるとしている[出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」2023年6月2日]。人事担当者向けの実務ガイドでも、入力前の匿名化・エンタープライズ版の利用・出力結果の最終確認という3ステップがセットで推奨されている[出典:プロナビAI「生成AIに個人情報を入力してはいけない?」2025年10月22日]。プランの変更は対策の一つであり、入力前の判断と出力後の確認はそれとは別に必要になる。
2026年の個人情報保護法改正は、生成AIと採用業務の関係にどう影響するか?
令和8年改正法は2026年7月10日に成立し、同年7月17日に令和8年法律第56号として公布された。改正では、顔特徴データ等を「特定生体個人情報」として新設の第16条第5項に定義して取扱いの周知義務を設けるほか、重大な違反についての課徴金制度、そして統計作成やAI開発を目的とする場合に本人同意なく個人データを第三者提供できる特例が新設されている[出典:三宅法律事務所「個人情報保護法ニュースNo.21 令和8年改正法成立・衆参附帯決議」2026年7月]。
ただし施行日は本記事の時点では決まっていない。公布から2年を超えない範囲で政令により定められるとされており、「2027年1月から段階的に施行」などと具体的な時期を示す解説記事もあるが、これらは成立前の見通しであって確定情報ではない。AI面接や動画解析を利用している、あるいは検討している場合は、施行日そのものを待つのではなく、顔特徴データを取得しているかどうかの棚卸しを先に済ませておくのが現実的である。なお、AI開発目的の第三者提供特例は、生成AIサービス提供事業者とのデータの扱いにも関わりうる論点であり、条文と今後の政令・ガイドラインで確認する必要がある。
まとめ
- 生成AIは個人情報を「書く」ところまでしか担わず、入力前・出力後の判断は常に人の作業として残る
- 国内外の事例に共通するのは、個人情報を渡す前の判断基準を個人任せにせず組織として設計している点である
- 入力時のルールだけでなく、共有機能など出力後の操作に起因する漏洩リスクも別途存在する
自社の採用業務で、どこまでを生成AIに任せ、どこで人が個人情報を確認すべきかを整理したい方は、候補者情報を扱う社内ルールを自社でどう設計するか、フェアパスの導入相談で整理できます。詳細はフェアパスの導入相談から確認してください。
著者:フェアパス編集部
この記事は、AIを使って作成し、編集部が内容を確認しています。